シリーズ「日本が危ない」⑥

日本の食が危ない

コープニュース編集主幹

田中 陽子

矛盾だらけの食品表示法改正

私たちが知らない間に遺伝子組み換えの食品を食べていることの原因は、国が定める食品表示法に大きな原因がある。

遺伝子組み換え品種を用いた場合には、食品のパッケージに表示する制度が2001年春から実施され、対象は現在、遺伝子組み換えの8作物と、それを主要原材料とする33の加工食品となっている。認可されている8つの作物については、遺伝子組換えであれば「遺伝子組換え」と表示しなければならないことになっている。(図④参照)当然、これらを原料とする加工食品や飼料にも表示すべきだが、実際に表示が義務づけられているのは33の食品群のみで、豆腐、納豆、味噌には表示義務があるが、同じく大豆を原料とする食品であっても醤油、食用油や甘味料は対象外となっている。

なぜか?その理由は「高度に精製されているので、組み換えられたDNAやそれによって発生したタンパク質を最終製品で検出できない」ためと政府は説明している。遺伝子組み換え作物を原料にしても表示されないのはこのためである。世界の国々では、全表示している国も少なくないというのに。

さらに、家畜のえさには表示義務はなく、遺伝子組換えの飼料を与えた家畜の肉や卵・牛乳・乳製品などの畜産品も表示を免れている。

2019年4月25日食品表示法が改正され、遺伝子組み換え作物及びそれを原材料とした加工食品の表示は、現行遺伝子組み換え作物の5%以下の混入を認めて「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」となされているが、その表示ができなくなる。

これは何を意味するのか。

輸入に際して、生産地からの集積、流通の過程で遺伝子組み換え作物と非遺伝子組み換え作物との「意図せざる混入」がおきる可能性があるので混入率が5%以下であれば「遺伝子組み換えではない」と表示してきた。(ちなみに韓国は3%、EUは0.9%の混入率を許容している)(図⑤参照)

遺伝子組み換え表示の改正に先立ち2017年度に消費者庁が設置した「遺伝子組み換え表示制度に関する検討会」で、「遺伝子組み換えでない」との表示を認める混入率を、現行の5%から「不検出」に引き下げる報告がまとめられた。

私はこの検討会に注目していただけにその報告は衝撃的であった。

「意図せざる混入の許容率を引き下げてほしいとの消費者の要望がある」と言いつつ「誤認防止、表示の正確性担保及び消費者の選択幅の拡大の観点から、『遺伝子組換えでない』表示が認められる条件を現行制度の『5%以下』から『不検出』に引き下げることが適当」と聞き食品業界、特に安心・安全を目指すメーカーは戸惑いを見せていた。

遺伝子組み換えを使用している場合の表示義務には触れられず、「不検出」、いわば混入率0%だけが「遺伝子組み換えではない」表示が認められることは、すなわち原材料にこだわりIPハンドリング(IdentityPreserved Handling・分別生産流通管理)にコストをかけてきた良心的な食品メーカーに負担を強いることに他ならない。

流通の過程で混入率0%は不可能なので、この表示改正によってこれまでの遺伝子組み換え大豆を使わないメーカーの取り組みが続けられないことが危惧される。

改正によってこれまでと同じ5%以下の混入率の大豆を使う場合、「原材料に使用している大豆は、遺伝子組換えの混入を防ぐため分別生産流通管理を行っています」、「大豆(分別生産流通管理済み)」といったわかりにくい表示が義務化される。

消費者庁は消費者の利益のためと言いつつ、消費者の「知る、選ぶ」権利である表示をわかりにくく改悪して2023年4月1日からこの表示法が実施される。

2016年5月17日、米国科学アカデミー(NSA)は遺伝子組み換え食品を人間や動物が食べても安全だとしている。日本もそれに追従して安全だとしているが…。

世界ではここ数年、EUをはじめ遺伝子組み換え作物の安全性を疑問視する国が増えている。中国やロシアでは遺伝子組み換え作物の輸入をストップし、国内栽培は終了させてオーガニック栽培へと方向転換している。

私たちは遺伝子組み換え作物を知らないで食べている。2年後には遺伝子組み換え作物を使った食品を避けるのがもっと困難になる。そうなればグローバル企業にとって都合のいい市場の確保につながる。

昨年は「合成」、「人工」の食品表示の削除が決まり、「無添加」、「不使用」も表示されなくなる可能性が高い。

日本の消費者は安全な食品を選べなくなっていく。

図④日本で販売・流通が認められた遺伝子組み換え作物とその用途 図⑤各国の遺伝子組換え食品の表示制度

田中陽子 Tanaka Youko

食生活ジャーナリストの会正会員
食品表示診断士
宮城県産業振興機構専門家
新潟県上越市メイドイン・上越審査委員

新潟県上越市出身。大学卒業後、女性週刊誌「女性自身」記者を経て、編集プロダクションを設立。美容と健康分野の広告企画制作と実用書籍編集を手がける。2008年10月より生協の情報紙「コープニュース」編集主幹。