穀田屋十三郎(こくだや じゅうざぶろう)

映画『殿、利息でござる』

畑尾 道廣

無私の日本人

これは、戦士でも、武士でもない、一般庶民の人々が、己を捨てて、人のため、町のために奔走した物語である。

その中心人物である穀田屋十三郎は、享保5年(1720年)、造り酒屋と質屋を営む浅野屋の長男として生まれたが、訳あって同じく造り酒屋を営む穀田屋へ養子に入った。実家は、四歳年下の弟が七代目浅野屋甚内を継いでいた。

舞台は、江戸時代中期に入った明和3年(1766年)、10代将軍徳川家治の時代。奥州仙台藩領内の貧しい一宿場町、吉岡宿に起きた、実際の出来事である。正義感の強い穀田屋の当主・十三郎が、代官に禁断の訴状を手渡そうとするところから、この物語が始まる。

禁断の直訴騒動

仙台藩の宿場町には、宿場間の物資の輸送を行う「伝馬役(てんまやく)」が課せられていた。貧しい宿場町である上に、通常は支給されるはずの助成金「伝馬御合力(てんまごごうりき)」が、伊達藩の直轄領でないため吉岡宿には支給されていなかった。このため、町は困窮し、破産者、夜逃げ者が相次ぐ有様であった。このような状況を案じていた十三郎は町の窮状を訴えるため、代官に訴状を渡そうとしたのである。ところがその場に居合わせた、京から帰ってきたばかりの茶師、菅原屋篤平治(すがわらやとくへいじ)に「打ち首になるぞ!」と止められる。

篤平治は吉岡宿きっての智恵者で、一回り年下であるが、十三郎はいつも師匠に教えを乞うような感じであった。十三郎から相談を受け同じ思いを共感した篤平治が出した策は、吉岡宿の有志で銭を出し合い、藩に貸して利息を取り、それを伝馬役に使うという奇策であった。その額なんと一千両(現在の価値で三億円)。町民がお上にお金を貸すなど、案を出した当の篤平治ですら夢物語と思っていたが、十三郎はその実現のため、同志集めに動き出したのである。