「明治のころに一度 還る」

田上 敏明

高貴と呼ぶべき精神性を持った
明治時代の日本人。

日本人が苦しい時代を耐えられた理由

また日清戦争直後、全く戦争にかかわりのない、フランス、ドイツ、ロシアによる三国干渉によって、日本はこれ以上の国民の負担と国力の消耗には耐え難く、隠忍自重せざるを得ない状況になりました。

しかも日清戦争自体が庶民に多大な負担を強い、戦いで疲れ果てた上に悪税を存続させた時の政府は、国民の不満を和らげたり、辛苦に報いたりする政治的、社会的な政策を何もとりませんでした。

しかしながら、当時の国民は、国あってこそという思いで懸命に厳しさに耐えました。まさに「臥薪嘗胆」の苦しい時でした。

当時の日本人の心は、自分の利益を後回しにしてまで国を守る、家族を守る、人に尽くす、自分の分通りに生きる、先祖を貴ぶなどの高い道徳性を持ち、貧しいけどもお金よりも信義、礼儀を重んじるなどの高貴と呼ぶべき高い精神性を持つ国民性を持っておりました。

心ある外国人は、日記や旅行記でその日本人の高い精神性を賞賛しています。

大森貝塚を発見したアメリカ人の動物学者モースは、明治15年ころの『日本その日その日』の中で、宮島の旅館に宿泊した時のことを書いています。4~5日近郊を旅して来るので、金の懐中時計と財布を金庫に入れて預かってくれるように頼むと、宿の主人は、「お盆の上において、部屋の机の上に置いておきますから大丈夫です」と応えたそうです。「そのような所において紛失したらどうするのか」と尋ねると、「そのような心配はご無用です」との返事でした。一週間後、帰ってみるとそれらは、お盆の上にそのまま置いてあったそうです。他の国ではあり得ないことだったので、モースはこの国の人々の正直さ誠実さにとても驚き、感動したそうです。

また、イギリスの探検家であるイザベラ・バードも、『日本奥地探検記行』に、「日本人は、貧しいけれど陽気で、近所の人々と仲が良い。何よりも子供を慈しみ、可愛がり大事にする。子供達も、いつも楽しげで笑っている」と記している。

このような身についた美しい心掛けを持った人々の暮らしを見ても分かるように、その明治29年頃の一時期は、国としては大変な時代でしたが、庶民は暖かい春のようでありました。

エドワード・シルヴェスター・モース Edward Sylvester Morse

エドワード・シルヴェスター・モース
Edward Sylvester Morse(1838-1925)
大森貝塚を発見し、日本の人類学、考古学の基礎をつくったアメリカの動物学者。

イザベラ・ルーシー・バード Isabella Lucy Bird

イザベラ・ルーシー・バード
Isabella Lucy Bird(1831-1904)
19世紀の大英帝国の旅行家、探検家、紀行作家、写真家、ナチュラリスト。