ノンフィクション作家・河添恵子

日本は傍観者のままでいいのか?

世界は「透明性がない」大国と本気で戦っている

中国の「誇大宣伝」への戒め

台湾は「中華台北」の名義で、二〇〇九年から二〇一六年にWHAに招かれたが、香港出身のマーガレット・チャン氏が事務局長時代の二〇一一年五月、WHOが内部文書に、台湾を「中国台湾省」と表記したため、台湾はWHOに正式抗議した。

民進党の蔡英文総統が就任後の二〇一七年五月からは、中共政府の反対でオブザーバー参加はできなくなった。寄付の申し出すら複数回、拒絶されている。

EU加盟国は、中国との政治経済での関わり具合に、それぞれ温度差はある。だが、武漢ウイルスによるパンデミック、「ステイ・ホーム」が余儀なくされる中、台湾の防疫体制を絶賛し、WHAのオブザーバー参加について、米国はもちろん、フランス、ドイツなど欧州の大国も支持を表明していた。並行して、中共政府を暗に非難する、識者の声もメディアが報じていた。

フランスの日刊紙『ル・フィガロ』は三月十七日、「台湾の民主的な統治モデルは防疫に成功した。中国の中央集権的な防疫モデルへの挑戦だ」との記事を掲載した。

欧州で発行部数が最多のドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル』もWHA開催を前に、こんな記事を出していた。

「習近平国家主席が一月二十一日、WHOテドロス事務局長と行った電話会談で、武漢のウイルスのヒト感染に関する情報と、パンデミックへの警告の公表を延期するよう組織に要請した」

「ドイツ連邦情報局は、『中国の情報が不透明なため、世界中が四週間から六週間、ウイルス対策の時間を失ったと推定している』との見解を発表した」

五月十六日には、元欧州議会議長・欧州大学院の元総長で、欧州連合外務・安全保障政策上級代表のジョセップ・ボレル氏が、ドイツの日刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』に、「中国との関係における信頼と相互利益」というタイトルで寄稿をした。

そこには、「中国の病院が大変な負担を負っている最中、EUは大規模な支援を提供してきたが、この事実をあまり宣伝しようとはしなかった。中国はその後、欧州に医療機器を送ったが、それを世界に知らしめようとした。お互いを助け合い、団結しなくてはならない時、援助から政治的何かを獲得することを避けるべきだ」と記されていた。中国の「誇大宣伝」への戒めであり、欧州人らしいシニカルな非難である。

しかし、このような「正論」を、中国のプロパガンダ(宣伝)機関に成り下がった日本のマスメディアが報じることは皆無に等しい。

新たなキーワードは「透明性」

さて、武漢ウイルスの発生後、マスメディアを読み続け、そして識者の発言を聞き続ける中で、私は新たなキーワードに注目した。「透明性」である。

WHAでも多用されていた。

米国のアレックス・アザー米厚生長官は、「少なくとも一つのWHO加盟国が、新型コロナ発生の隠蔽を試みたことは明白で、透明性という義務をあざ笑った」と、名指しはせず中国を批判した。

これに対し、中国の馬暁偉国家衛生健康委員会主任が「透明性があり責任ある姿勢で、発生の通知やウイルスの遺伝子の情報を共有するなどして国際社会と協力してきた」と米国などの主張に真っ向から反論した。

そして、締めくくりのテドロス・アダノム事務局長の挨拶は、「WHOは、透明性の確保や説明する責任を果たすこと、それに改善を続けることを約束する」だった。

国際社会は「透明性がない=隠蔽体質」の大国、一党独裁政権とそこに唯物的価値で仕える組織・人間と本気で戦っている。

日本の政官財は、世界のこの〝不可逆的な新潮流〟を分かっているのだろうか。

河添恵子

河添恵子
Kawasoe Keiko

ノンフィクション作家
株式会社ケイ・ユニバーサルプランニング 代表取締役
一般社団法人美し国 なでしこオピニオンの会 顧問

1986年より北京外国語学院、1987年より遼寧師範大学(大連)へ留学。『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版・2010年)はAmazon〈中国〉〈社会学概論〉2部門で半年以上、1位を記録するベストセラー。近著は『米中新冷戦の正体』(共著)(ワニブックス)Amazon〈中国の地理・地域研究〉1位。ネットTV(林原チャンネル・チャンネル桜等)にレギュラー出演中。50ヵ国以上を取材。