シリーズ「日本が危ない」②

日本の将来と私たちの責任

〜黛敏郎氏が語った30年前の「日本が危ない」〜

平和憲法と自衛隊

これが日本の国の現状であります。確かに平和憲法というものがあります。私はこういう憲法を早く改正しなくてはならんということを、以前から提唱しておるものですから、声を大にして申しますが、いま日本の社会のすべてを覆っている過ち、諸悪の根源というものは、やっぱり占領中におしつけられた、この憲法にあると思うのであります。

そこには確かに平和憲法というにふさわしい、美しい高邁な理想があります。

「日本国民は−平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我等の安全と生存を保持しようと決意した」と、その前文に書かれています。非常に美しい文章であります。

平和を愛するであろう外国の公正と信義を信頼する。そして、自分たちの平和と生存を、それに委ねようとする。誠に美しいことでありますけれども、日本の周囲にある国々が、本当に平和を愛し、公正と信義に満ちた国であるかどうか。これはもう、ソ連の例を見たって一目瞭然であります。

ソ連は昭和20年8月9日に、中立条約を一方的に破棄して、ソ連国境を雪崩のごとく突破して、満州に攻め込んできた。そして、関東軍をやっつけたならともかくも、一般の罪なき市民である日本人を、あれだけ殺戮した。

日本では江戸時代から続いている北方領土を、今でも一方的に不法占領しております。

しかも、これは8月15日の終戦後に上陸してきて、アメリカ軍がいなかったから、取られてしまったという領土です。そういう国が隣にいるのに、何が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して…」ですか。そんなことを言っていたら、元も子もなくなってしまうというのです。

それにも拘らず「日本は平和国家なんだから、軍隊なんてものはなくても、外国の公正と信義を信頼していれば、日本は未来永劫無事である」なんて、馬鹿々々しいことを言っている人たちがいます。

そういう人種は、永世中立国として、平和の象徴であるスイスの状態をご存じなのでしょうか。スイスという国は永世中立、未来永劫に戦争を放棄した国です。全国民は628万人(2018年854万人)だそうですが、これが国民皆兵でありまして、48時間以内に62万の軍隊を召集することができるんだそうです。つまり、永世中立を保持するためには強固な軍隊の備えがなければならないのです。

私は、航空自衛隊の要所、青森県の三沢基地の視察で、司令官からいろいろとお聞きしたことがあります。スクランブルする飛行機が二機、いつもエンジンをかけて待機しております。

定期便と言っておられましたが、今だって日本列島の上を、ほとんど毎日、国籍不明の飛行機が領空侵犯をしてきます。すぐにレーダーが発見して、待機中の戦闘機が迎撃に上がる。なぜ二機でいくのか。その理由を聞かしてもらいました。

一機は隊長機で、まず、その未確認の飛行物体、大体ソ連の戦闘機だそうですが、その間近まで行く。そして、もし敵機が攻撃してきたならば、後続の副隊長機が応戦することができる。

攻撃してこないと領空内に入っている敵機に対しても、それを排除することができません。だから、最初に行く隊長機は犠牲になるわけです。隊長機が落とされたのを見て、迎撃することができる。つまり、これが正当防衛の精神なんですね。攻撃してきたから応戦することができる。それで二機要るんだそうです。その中の一機は撃ち落される運命にある。私は話を聞いていて、これは大変なことだなと思いました。

それを承知で、毎日のスクランブルに行くんだそうですけれど、そういうことを黙々と、日本の自衛隊の人達はやっている。こんな国はないですよ、それよりも、落とされた人の命をどう考えるのでしょうか、「人間の命は地球よりも重い」と言ったのは福田前首相ですけれども、確かに、人の命は地球よりも重いです。自衛隊員の命というものは、鳥の羽根よりも軽いのですね。そういう状態で、はたして日本が守れるのかどうか。

日本の将来に大事な「教育」

先ほど、日本の新聞が誤った方向の論調を誘導すると申し上げましたが、そういうマスコミと同じく、国民の世論、国民全体の意思というものに影響を持っているのは教育だと思います。

教育基本法というのは憲法と同じ時に定められた、日本の教育の基本姿勢というものを、ここで確定した、大事な大事な法律であった。

ところが、その大事な基本法の中には、日本国民としての自覚と、日本文化を尊重しようということは一言一句も書かれていない。ただ個人の自由と権利というものばかりが強調されていて、われわれにとってかけがえのない、この日本という国の将来を若い人たちに認識させることについては、何一つ書かれていない。

それもそのはず、これは占領軍が認可した法律でありますから、憲法と同じでありまして、そういうことを書かれるのは、占領軍にとって好ましいことではなかった。占領時代というのは、ご存じのように、日本が再び立ち上がって復讐をしないようにということで、それを排除する方策が徹底的にとられました。その一つが日本国憲法であり、教育基本法であったのです。

もっとも失望しましたのは、教科書事件でありました。これは、私自身が当事者でありましたので、あまり申し上げたくないのでありますが、ごく簡単に申し上げますと、日本の教科書というのはひどい。一寸ご覧になっていただければわかりますけれども、例えば日露戦争。あの日本が国運を賭した日露戦争。あの記述の中には、東郷平八郎も出てこなければ、乃木希典も出てこないのですよ。

出てくる名前はというと、幸徳秋水、与謝野晶子、内村鑑三の3人です。「日本政府は日露戦争へと国民をかりたてたけれど、この3人は反戦論を唱えた」ということで出てくるのです。

しかし、戦争は行われた。そして、日本が結果的に勝って、云々という記述になっている。わずか2~3行の記述なんです。なぜ日露戦争が起こったのか、その戦いでは何があったのかということは書かれていない。だから、東郷平八郎も乃木希典も出ていないのです。

ある人がお孫さんを連れて、横須賀にある三笠の記念館に行ったんです。そして、「これは日本海海戦の時に、東郷さんが乗っていた軍艦なんだよ」と説明をした。ところが、その孫さん、小学校6年生ですけれども、まったくわからない。

「東郷さんて、ダレ?」。東郷さんを知らないのかと、その方はパンフレットを見せたところ、「東郷平という人もいたの」っていうんですね。

これは笑い話としてすまされない。東郷平八郎と言えば、ネルソン提督と並んで、イギリスの国史の教科書にも出てくるのですね。「彼は、日本海海戦で大勝利をし、日本が大国ロシアを打ち負かした最大の功労者で、ネルソン提督に比肩すべき名提督である」と、書かれているそうです。その東郷さんの名前が日本の教科書には出てこない。ただ私どもが編纂した教科書にだけ出てくるんです。