シリーズ「日本が危ない」②

日本の将来と私たちの責任

〜黛敏郎氏が語った30年前の「日本が危ない」〜

国は生れ落ちてからついてまわるもの

日本人は自分のことを知らない。つまり、自分の国を大事にしませんね。今、若い人に特に言いたいことは国家意識がないことです。つまり、自分は日本の国民なんだという意識がない。また、あってもそれを大事にしない。

「日本なんかどうなったっていい。日本人でなくたっていい」という若者がたくさんおります。しかし、日本の国籍を捨てない限り、日本にいても、また、外国に行けばなおさらです。その人は日本人の一員という立場でしか評価されない。そういう宿命を持っているわけです。

昔、テルアビブで、跳ね上がりの日本の学生が大量殺戮ということをやりました。その時私はヨーロッパにいたんですけども、あの時くらい、私は惨めな思いをしたことはない。そこに生まれた以上は、そういう宿命を分かち持っているのであります。

私が言いたいのは、「日本人であることをやめることができないなら、なぜもっと日本を大事にしないのか、国というものをなぜ大事にしないのか」ということです。今の日本の若者たちには、その意識が非常に足りない。

ある時、一人の若者が私に言いました。「黛さんの年代の人達は、日本の歴史や伝統を大事にしなければいけないというけれども、若者たちはそうは考えていません。むしろ、世界中の若者たちが手をつないで、世界国家を建設しようという意気に燃えています。今更、民族だとか、歴史だとか、伝統だということに凝り固まるから、戦争が起こるんじゃないでしょうか」

私はその若者に言いました。

「君の言うように、国も民族の差もなくなって、暮していければこんなにいいことはないよ。しかし、ちょっと考えてごらんよ。君が外国を旅行するときにどうするか。まずパスポートを手に入れなけければ、飛行機の切符も買えないし、その国のホテルにも泊まれないじゃないか。そのパスポートにはなんと書いてある。最初のページをめくると、そこに “日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行せしめるよう、その筋の官憲に要請する” そして、日本国外務大臣、誰それと、大きなハンコがペタンと押してある」

「つまり、日本国外務大臣がオフィシャルに、この旅券の所持人が日本の国民であるということを証明してこそ、相手の国の機関は、切符を売ってくれるし、ホテルも泊めてくれる。君が『俺は日本人である必要はない。平和を愛する世界の若者が一緒になればいいんだ。パスポートもいらない』といって破ってごらんなさい。とたんに君は飛行機にも乗れないし、ホテルにも泊めてもらえず、やがて国家機関に拘留されてしまうんだよ。君は自分が生まれたこの国をもっと愛し、もっと大事に考えたほうがいいのではないか」

その青年は苦笑しながら何も言いませんでしたけれども、そういう青年が言う次のセリフは大体決まっています。「今の日本の政治の現状がいけない。自民党政府がダメで、国民の身になって政治をやってくれる政府でなくちゃいけない」。

平和国家と若者の愛国心

私が申しあげたいのは、今の政治がよくないだの、自民党政権がいかん、総理大臣がいかんという前に、そういう人たちを選んだのは自分たち国民だということです。

私は、この日本の将来を考える上において、私たちの責任はみんなが分担し、感じなくてはならないと思うのです。自分たちの責任ということをやはり考えなくてはいけないのです。それを他人の責任ばかりに転嫁している考え方が、今の日本の社会全般を覆っている、由々しい風潮ではないかと思うのです。

ところで、この日本という国は非常に特殊な国でありまして、戦後の40年間というもの、国民の愛国心と言ったら語弊がありますけれど、どこの国民だって、当然持っていなくちゃならない意識というものを、まったくゼロにしてしまった。私はこの結果と責任は、われわれ国民の一人一人が分担しなければならいものだと思います。

ある新聞社が日本の若者、18歳から24歳までの男性に、次のアンケートを試みました。「もし日本が外国から侵略をされたら、君はどうするか?」。一番多かったのは、「武力によらず抵抗する」という答えで、48%ありました。サボタージュみたいなことでしょうが、外国の軍隊に囲まれているときに、具体的に何をやるのか分からないけれど、これが一番多い。

その次に多かった答えは、「逃げる」これが37%。どこへ逃げるんでしょうか、日本は周り中が海ですね。最後に、「武器を持って立ち上がる」というのが15%でした。私はわずか15%でも、武力を持って立ち上がると書いてあったことは、素晴らしいことだったと思います。今の日本の現状からすれば、この15%の人達が唯一の希望の星だといえます。

自分たちの国土や家族が敵国の軍隊に侵略されて、どうすればいいかという時に、かなわないと知りつつも、武器を持って立ち上がるというのが人間の男たちがやることではないでしょうか。

しかし、日本の戦後教育はそういうことは教えない。「武力を使うことはいけないことだ」というお題目、平和主義というのだそうですが、相手の言うなりになって、武力に頼らず抵抗する。どうやるのか、私にはわかりません。精神的に抵抗するんでしょうが、武力をもって侵略してきた軍隊は、そんなこと屁とも思わないでしょう。

同じような統計が、世界の国々で行われた参考資料がありました。日本の、武器を持って立ち上がる15%は、申すまでもなく最低でした。中国などは、全員が武器をもって抵抗するわけです。そうでなくても、世界の国々では大体過半数以上の若者達が「武器を持って立ち上がろう」のところに〇をつけていたのです。